ズッケエロ戦とアバッキオ(3/3)
アバッキオにとってズッケエロ戦の勝利は、過去に縛られた日々からの勝利なのだ。
‥‥‥と言ってみたところで誰にも理解してもらえないので、少しずつ解説していくシリーズ、その3。最終回です。
これまでの2回で、アバッキオの警官時代のエピソード、彼を暗い日々から連れ出したブチャラティの行動、そしてムーディー・ブルースの能力について見てきました。
今回は、じゃあ結局、ズッケエロ戦にはどういう意味が隠されているのか?について解説していきます。やっと本題です。
ブチャラティチーム、ズッケエロと対面。
ブチャラティチームがズッケエロと対面したのは、獄死した幹部ポルポの遺産100億リラを回収するため、レンタルヨットに乗ってカプリ島に向かっていた途中だった。
©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険GW製作委員会
ズッケエロのソフト・マシーンは、薄緑色でとげとげのボディを持つ、人間型のスタンド。頭はゴーヤみたいだ。
スタンド能力は、短剣で人やものを突き刺し、ゴム風船のように空気を抜く、というもの。基本的な使い方としては、人間をうすっぺらくして人質にとる、物をうすっぺらくして隠す、自分をうすっぺらくして身を隠す、などが考えられる。
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そして今回、ブチャラティチームとの対戦においては、「船をうすっぺらくして別の船にかぶせ、二重の内側に自分や拉致したナランチャたちを隠す」という、一見謎な使い方をしている。
だが、船が二重だということに意味がある。
アバッキオは警官時代、社会に蔓延する「矛盾した考え方」に反感を覚えていた。正義のために犯人を追いつつも賄賂を受け取る警察と、警察の正義を期待しつつも文句たらたらの市民。
そんなダブルスタンダードな状況に屈しそうになったとき、警官アバッキオは相棒を殺されてしまったのだった。
二重の船は、そんな「矛盾した考え方」を暗に示していると考えられる。
油断している隙にナランチャたちを人質に取られたことは、強盗に相棒を殺されたことに相当するのだ。
©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険GW製作委員会、表は独自
過去に縛られる日々を送っていたアバッキオに声をかけてくれたのも、ズッケエロ戦で最後の一撃を与えたのも、ブチャラティに一致する。
だから、ズッケエロ戦はすごく納得いくのです。
アバッキオはブチャラティの助けで、警官時代に苦しんだ社会の矛盾に勝利した。
アバッキオが過去に勝つ回、それがズッケエロ戦なのだ。
ズッケエロ戦とアバッキオ(2/3)
アバッキオにとってズッケエロ戦の勝利は、過去に縛られた日々からの勝利なのだ。
‥‥‥と言ってみたところで誰にも理解してもらえないので、少しずつ解説していくシリーズ、その2です。
アバッキオの警官時代のエピソードを中心に見てきた前回。今回は、ブチャラティの行動と、ムーディー・ブルースの能力について、解釈してまいりますよ。
アバッキオ、大後悔。
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社会の矛盾や二重性に屈した結果、本来ならアバッキオ自身が殺されるところだったのに、現実に殺されたのは相棒のほうだった。
自分の一瞬の気の迷いが、相棒の死の原因となったのだと、アバッキオは考えるようになったにちがいない。
アバッキオはそのとき、本来死ぬはずだった肉体の代わりに、心が死んだ。
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だから「アバッキオの未来はそこで消えた」し、「どこで誰が死のうが、自分の手足がなくなろうが、心は動かな」くなった。
アバッキオは酒に浸り、闇落ちした。
そんな彼に声をかけたのが、ブチャラティだった。
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大切なのは結果ではなく、そこに至る道筋。過去に縛られるのはもうやめろ。
通りに立つブチャラティにそう言われたアバッキオは、一度室内の暗闇を見やってから、ブチャラティに向き直る。過去と後悔に縛られて生活していた日々のことを一瞬思う。
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この時のアバッキオは何を考えていたんだろう…。
私は、相棒の死がすでに過去にあることを、やっと心で理解した瞬間なのではないかと思う。
相棒の死を受け入れたことで、ブチャラティについていき、ギャングに入るという未来向きの決断ができたのではないだろうか。
そしてポルポの面接を受けて。
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アバッキオが手にしたスタンド「ムーディ・ブルース」は、過去を再生する。
過去は変えられない。なぜ相棒を殺すという結果が生まれたのか、アバッキオは失意のうちに何度も何度も振り返って後悔したにちがいない。自分の視点だけでなく、相棒の視点からも。
それが、「他人の目線で出来事をありのままに再生する」というスタンド能力につながっている。
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そして後悔の間は、他に何もできなくなっていた。だから、スタンド能力を使ってリプレイしている間は他の攻撃はできず、丸腰なのだ。
「過去を再生する」という、警官の捜査に非常に役立ちそうなスタンドを、警官を辞めてから手に入れる。まったく、皮肉な話だ。
今回のまとめ
ブチャラティの行動と、アバッキオのスタンドについて見てきました。
- アバッキオは一瞬の気の迷いのせいで相棒を殺してしまったと考えた。
- そのとき、死ぬはずだった肉体の代わりに、「心が死んだ」。
- 過去に生き、酒浸りの日々を送るアバッキオに声をかけ、救い出したのがブチャラティ。
- 過去を再生するスタンドを得たのは、相棒の死を何度も思い出し、理由を探っていたから。
次回、最終回です。
ズッケエロの使った船が2重だったことと、アバッキオの過去とのつながりについて。ズッケエロ戦はどういう意味だったんでしょうか。ご期待ください。
ズッケエロ戦とアバッキオ (1/3)
アバッキオにとってズッケエロ戦の勝利は、過去に縛られた日々からの勝利なのだ。
‥‥‥と言ってみたところで誰にも理解してもらえないので、少しずつ解説していくシリーズ、その1です。
警官アバッキオは悩んでいた。
アバッキオは若い頃、正義感あふれる警察官だった——最初の頃はね。
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社会には矛盾がたくさんある。
「正義のために犯人を追いつつも賄賂を受け取る警察」。
「警察の正義を期待しつつも文句たらたらの市民」。
そういったものを、警官アバッキオは目の当たりにした。
警察は正しいふりをして、全く正しくない。市民は警察に期待を寄せ、そのくせ完全に失望している。
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上っ面と本心との二重の考え方 が、社会に満ちていたのです。
世の矛盾に染まっていくアバッキオ。
そういう矛盾した考え方にしっかり反感を覚えられるのが、アバッキオのいいところ。
だがその一方で、自分もコソ泥から賄賂を受け取って逃がしてしまったりする。
「自分が金を受け取るか、裁判所が受け取って保釈するかの違いだ」
と考えるようになったのだ。
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世にはびこる二重性に、徐々に染まっていくアバッキオ。
ある事件がアバッキオの人生を狂わせる。
そんなとき、以前賄賂を受け取ったことのあるコソ泥が、今度は強盗になっていた。相棒とふたりで現場に急行すると、住居侵入、暴行、窃盗、と逃れようのない罪状。
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警官アバッキオは、今度こそきっちり逮捕してやろうと考える。
しかし、強盗野郎は
「俺を逮捕すればあんたの賄賂も明るみに出る」 と言う。
たしかにそうだった。強盗野郎を逮捕しても、どうせ保釈金を払って刑務所を出てしまう。ただ自分に汚職警官という汚名を着せるだけのことになるのだ。
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この一瞬、保身のために正義を諦め、アバッキオは強盗野郎から銃を下ろした。
だが、強盗は銃を持っていた。
強盗野郎は、アバッキオたち警官2人をだまして逃げようと考えていたのだ。間一髪のところで、それに気づいたのはアバッキオではなく、相棒のほうだった。
銃声は2発響き、一方は強盗を動けなくした。
もう一方は強盗の放った弾だった。
アバッキオの相棒の胸を直撃した。即死だった。
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今回のまとめ
アバッキオの過去について見てきました。
- 警官アバッキオの感じていた「二重の社会」
=表面上は正義感があるように見えつつ、実際のところは悪を許し、助長している - 強盗犯を前に一瞬だけ、悪の助長に加担する
- その結果、アバッキオは相棒を死なせてしまう
次回予告です。
- ブチャラティとの出会い
- ムーディー・ブルースの意味
諸説あり。
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